◆復刻紙芝居

■高橋五山の「幼稚園紙芝居シリーズ」について

昭和10年(1935)より刊行開始された高橋五山の最初期の紙芝居「幼稚園紙芝居」シリーズ全30作品を収録した本が出版されました。高橋洋子編著『教育紙芝居集成 高橋五山と「幼稚園紙芝居」』(国書刊行会、2016年7月25日発行)。同書は、第54回(平成30年度)「日本保育学会保育文献賞」を受賞致しました。
詳細は国書刊行会のホームページをご覧ください。http://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336059321/

保育紙芝居の生みの親:高橋五山の紙芝居が復活

高橋五山は、紙芝居に文化財的存在としての価値を作り出そうと情熱を注ぎました。
五山は、1935 (昭和10)年、「幼稚園紙芝居シリーズ」の制作にとりかかります。
紙芝居の歴史の中で最初に出版された「保育紙芝居」として知らるこの「幼稚園紙芝居シリーズ」を復刻いたしました。(第一巻、二巻、四巻)
★全甲社「復刻シリーズ」一覧★

第一巻:ベニスズメトウグヒス(初版:1943年)2011・1・10発行
第二巻:ピーター兎(初版:1938年)2011・1・10発行
第三巻:なかよしのおうち(初版:1955年)2011・10・10発行
第四巻:ふしぎの国アリス物語(初版:1937年)2012・2・20発行
第五巻:あかんぼじいさん(初版:1953年)2013・3・15発行
第六巻:おきゃくさま(初版:1950年)2014・3・25発行
第七巻:けんかだま(初版:1949年)2023・3・7刊行予定

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復刻作品について

第一巻「ベニスズメトウグヒス」、第二巻「ピーター兎」は80年以上も前の戦火を生き延びた二作品です。「ベニスズメトウグヒス」は物資が極端に乏しくなった戦中期に考案した「はり絵紙芝居」です。シンプルな造形と明快な筋は、紙芝居の世界を広げました。「ピーター兎」は前年に日中戦争が勃発し、統制強化されていく中、昭和13年(1938)5月に刊行されました。戦争とは関係のない自由で平和な作品です。第三巻「なかよしのおうち」は昭和30年(1955)の作品で、高橋五の脚本と井口文秀の画です。柔らかな筆致の絵とやさしい言葉とともに、お互いの思いやりの気持ちを伝えてくれる作品です。第四巻は「ふしぎの国アリス物語」(1937年)です。85年も前に作られた紙芝居のアリスについて、特別に付録をつけることにしました。第五巻は「あかんぼじいさん」です。若返りの水をたくさん飲みすぎて、赤ん坊になってしまう笑い話です。本作品は、わがままで欲張りな隣のじいさんを登場させ、その欲深さのために失敗を犯すところが強調されています。保存されていた原画が見つかり新しく製版し直して美しく仕上がりました。第六巻は「おきゃくさま」です。昭和25年(1950)に「誰にもつくれるはり絵紙芝居」として紙上に発表された作品です。八場が十場面に展開する斬新な紙芝居です!!
 

第一巻「ベニスズメとウグヒス」

「ベニスズメとウグヒス」は、紙芝居を幼児教育に生かしたいと願い、物資が極端に乏しくなった戦中期に五山が考案した「はり絵紙芝居」です。シンプルな造形と明快な筋は、紙芝居の世界を広げました。紙質が悪く裏面に文字が書けないため、文章は別紙となってました。薄紙で戦時下を示す「決戦体制版」と記載があります。復刻版は、井草幼稚園(東京・杉並区、昭和8年創立)からお借りしてきたものを原本としました。

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第二巻「ピーター兎」

ピーターみいつけた!いたずらうさぎピーターは、紙芝居の中に隠れていました・・・今から80年以上も前のこと。前年に日中戦争が勃発し統制強化されていく中「ピーター兎」は昭和13年(1938)5月に刊行されました。戦争とは関係のない自由で平和な作品です。ビアトリクス・ポターの「ピーターラビット」を下敷きに高橋五山が話を再構成し、紙芝居に仕立てました。この作品は「幼稚園紙芝居シリーズ」の十一巻として発行されたものです。(復刻に際し、著作権について確認済み)

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世界で一番有名なウサギ、ピーター(1902年に英国で発刊)
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<高橋五山が手掛けたピーター兎と日本での受容について> 特別な歴史をたどった記念碑的な紙芝居!!
英国でビアトリクス・ポター(Beatrix Potter:1866-1943)作『ピーターラビットのおはなし』(原題:「THE TALE OF PETER RABBIT」)が、フレデリック・ウォーン社から商業出版されたのは1902年のことである。出版されるとすぐにベストセラーとなったこの絵本は世界各国の言葉に翻訳された。フレデリック・ウォーン社の著作権登録の失念により、1904年のヘンリー・アールテマス社版が海賊版の皮切りになり、さまざまな「ピーターラビットもの」が出回った(『大東文化大学 英米文学論叢』40号、2009年、32頁)。西山敏夫編『幼児にきかせるお話のたね』所収「ピーター兎」(実業之日本社1955年)にはアメリカの話と記述あり。日本で最初に版権を取得して出版されたのは石井桃子訳『ピーターラビットのおはなし』(福音館書店1971年11月)である。
日本における「ピーターラビット」の受容については、1906年に松川二郎が『日本農業雑誌』に「悪戯な小兎」を掲載したのが本邦初訳とされている 。大正期にはいると子ども向けの児童雑誌にも掲載されるようになった。1915年発行の『幼年の友』に「ピータロー兎」が紹介され、1918年発行の『子供之友』に「ピーターウサギ」が掲載された。1925年には文武堂から出版された『尋常小学一年』に「ピーターウサギ」が掲載されており、これは高橋五山が編集したものと考えられる。明治・大正期に刊行されたものとして確認できるのは、現在のところこれだけである。
雑誌の記事ではなく、単独の出版物としては、書籍を含めて、1938年に刊行された高橋五山の紙芝居『ピーター兎』が最初である。さらに戦前期に作られたピーターラビットの紙芝居はこれだけである。本作品はそれ以前の雑誌掲載のピーターラビットものとは異なり、絵と言葉で語りかけるという特徴を有しており、出版するとすぐに子どもたちや保育者にも人気の作品となった。紙芝居という媒体を用いることによって、視覚と聴覚の両方で補うことになり、幼児にとって物語展開がわかりやすくなったのである。高橋五山は大正から昭和にかけて児童雑誌、絵本など複数メディアで「ピーター兎」を紹介している。高橋五山編集『尋常小学一年』(文武堂1925年)掲載の「ピーターウサギ」は今まで知られていなかったが、その絵や内容は幼稚園紙芝居『ピーター兎』と共通性がみられる。高橋五山編集「コドモエバナシシリーズ」という絵本でも『ピーター兎』(全甲社1940年頃)が出版されていることが判明した。さらに別の絵本には「幼児に読んできかせるお話ピーター兎 高橋五山」との記載があるが現存資料では表紙や奥付が欠落しているため発行日は不明(参考資料:高橋洋子編著『教育紙芝居集成 高橋五山と「幼稚園紙芝居」』国書刊行会、2016、137-141頁)。
日本における「ピーターラビット」の受容は、戦前に出版された高橋五山の幼稚園紙芝居『ピーター兎』(1938)が子どもたちの人気を得て、保育者の手によって戦中期の「白ちゃん兎」および戦後の「ピーター兎」という劇遊びに展開し、原作の絵本とは異なる紙芝居という形から普及していったことが明らかになった(参考資料「高橋五山による「ピーターラビット」の紙芝居化と劇遊びへの展開」『法政大学大学院紀要』86号、2021-3)。
 

第三巻「なかよしのおうち」

作:高橋五山 画:井口文秀 (十二場面)

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この作品は昭和30年(1955)3月15日に出版されたものを原画から新しく製版し直し復刻したものです。
「かつて、『魚樵問答』という画を見て、もし私たちが、このように天分の境遇をとうとび信じ、希望をもって生活できたらどんなにかしあわせだろうと思った。いがみあって、罵りわめくこともなくなり、人と人は互いに信じ感謝しあって、のんびりと楽しい日をおくることができるでしょうに。せめて、この作品を見る幼児に魚樵の快活な性格にふれさせたいと希っています。」高橋五山のことばが紙芝居に書かれていました。柔らかな筆致で描かれた日本の原風景、やさしさと思いやり、作品の中に盛り込まれた願いを強く感じました。
永照寺幼稚園(甲府市、昭和16年創立)からお借りしたものを原本といたしました。
 

第四巻「ふしぎの国 アリス物語」

作:高橋五山 画:日向眞 (十八場面)
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別冊付録(A5/32頁)として、作品の解説と原文がついています。
紙芝居「ふしぎな国 アリス物語」の復刻を望む声をアリスファンの方々からいただいて出版いたしました。「ふしぎな国 アリス物語」は昭和12年(1937)に幼稚園紙芝居の第9巻として刊行されました。18枚の作品に仕上がっています。画はとても丁寧に描かれていて紙芝居だけではなく、画集としてもみていただきたいと思います。
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『ふしぎの国アリス物語』は高橋五山が「ふしぎの国のアリス」(ルイス・キャロル原作)に脚色を加え、紙芝居に仕立てたものです。日本独自の文化である紙芝居と外国の児童文学が融合した画期的な作品です。復刻紙芝居第4巻は、紙芝居本体(18場面)の他に、作品の解説と原文を別冊付録(A5/32頁)をつけてお届けいたします。

ふしぎの国のアリス

金時計を見ながら、あわてた様子で走っていく兎さん。アリスちゃんも後を追って走り出し、兎の穴の中へ・・・
いったいどうなってしまうのでしょうか?それは見てのおたのしみです。紙芝居のはじまり はじまり!

ふしぎの国のアリス
≪ふしぎの国アリス物語11場面≫
「まあ、どっちへ行ったらよいのかしら」

ふしぎの国のアリス

≪ふしぎの国アリス物語17場面≫・・・美しい広場にでました。そこには、魚のような顔をした人や、蛙のような顔をした人が行儀よくならんでいます。みんな身分のある人でしょう。りっぱな服をきて、胸にキラキラ光る勲章をさげていました。
 

第五巻「あかんぼばあさん」

作・画 高橋五山  (十二場面)
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高橋五山が昔話『若返りの水』を紙芝居に仕立てたものです。五山は戦前に『あかんぼばあさん』(1940年発行)を、戦後に『あかんぼじいさん』(1953年発行)を出版しました。どちらも若返りの水をたくさん飲みすぎて赤ん坊になってしまう笑い話です。小泉八雲が英語に翻訳した日本童話5作品の一つに『若返りの泉』(1922・12)があります。昔話研究としても『あかんぼじいさん』を手に取っていただければ幸いです。
 

第六巻「おきゃくさま」

作・画 高橋五山  (八場面)
この作品は、高橋五山が手作り紙芝居を推奨するために考案した、子どもたちと一緒に制作できる「はり絵紙芝居」です。1950(昭和25)年に「誰にもつくれるやさしいはり紙画 保育紙芝居」として雑誌『紙芝居』に掲載されました。出版されたものは確認できておりませんが、五山の手作りの原本が「人形劇の図書館」(滋賀県)に所蔵されていることがわかり、ご協力を賜り、出版することができました。
この作品の内容は『児童文学と紙芝居―広介・未明・五山を中心に 』(有明双書 2013年)にも掲載されています。
子どもたちが、数を楽しく認識していく紙芝居です。8枚が10場面に展開する斬新なアイデアが盛り込まれています。はり絵の作り方も掲載しています。この作品は、国立特別支援教育総合研究所発達障害教育情報センター様より、幼児期から小学校低学年の発達障害のある子どもへの指導に活用できるという意見をいただいております。また、公益社団法人シャンティ国際ボランティア会(SVA)様より、海外の子どもたちに勧められるというご意見もいただきました。

おきゃくさまの説明

幼児の日常の遊びは、数に関係をもつことが多いのです。ですから、せめて五つぐらい迄の数は、観念としてはっきりさせてやれば、お遊びの内容もいっそう豊かになると思います。見たり聞いたり、真似たりすることでずんずん伸びていく、そこが狙いでございます。(高橋五山 1950年)

うさぎの説明

斬新で、他にはない様々な使い方ができる紙芝居です。

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その他

高橋洋子編著『教育紙芝居集成 高橋五山と「幼稚園紙芝居」』

国書刊行会 2016年7月発行(第54回(平成30年度)日本保育学会保育文献賞受賞!!)